東京高等裁判所 昭和33年(ネ)643号 判決
被控訴人が、昭和二八年四月一三日訴外朱信発のため被控訴人所有の本件不動産について、被控訴人主張の債権額五〇〇万円の債務のため抵当権を設定し、翌一四日右抵当権について横浜地方法務局溝口出張所同日受付第七七七号をもつて、抵当権設定登記を経由したこと、被控訴人が昭和二八年七月九日朱信発に右金五〇〇万円の元利金全額を返済し、右債務並びに抵当権が消滅したこと、及び朱信発が昭和二九年一二月一一日死亡し、控訴人がその相続をしたことは、当時者間に争がない。
従つて、右抵当権の不存在確認を求める被控訴人の請求は、控訴人が請求棄却の判決を求めている限り、なお確認の利益があるものと解すべきであるから、これを正当として認容すべきものとする。
被控訴人は、なお控訴人に対し、右抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるのに対し、控訴人は、被控訴人が朱信発に対し新たなる債務を負担し、この債務について本件不動産に抵当権設定の契約をなし、その登記については、すでに消滅した被担保債権についての前記低当権設定登記を流用することを約したのであるから、右抵当権設定登記は抹消せらるべきものではない、と主張するので、考えるに、被控訴人の朱信発に対する前記債務の消滅した日の翌日である昭和二八年七月一〇日被控訴人が改めて朱信発から、金五〇〇万円を弁済期を同年一〇月一〇日とする外、利息損害金につき、前回と同様の約定で借受けたことは当事者間に争ないところであり、ただ右新たなる債務について控訴人主張の抵当権設定契約がなされたかどうか、またその登記について従前の抵当権設定登記を流用する旨の合意が成立したかどうかについて、当事者間に争のあるところである。而して、成立に争のない乙第二ないし四号証、原審証人銭緑栄の証言によれば、控訴人主張の如く、新たな債務についての抵当権設定契約並びに抵当権設定登記流用の合意があつた事実が窺われるのであつて、原審証人板垣清の証言中右認定に反する部分はたやすく信用することができない。
しかしながら、すでに弁済によつて消滅した債権について設定されていた抵当権の登記を他の同額の債権の担保のために流用する合意をしても、右合意は無効であると解すべきこと、原判決理由の説示するとおりであつて(昭和六年八月七日大審院判決、民集一〇巻八七五頁、昭和一一年一月一四日大審院判決、民集一五巻八九頁参照)、登記が現在の権利状態に符合するを以て足りるとする理論だけからは、右と反対の解釈を採り得ない。
従つて、右抵当権設定登記は、無効に帰したものとして抹消せられるべきものであり、朱信発の相続人として右登記の抹消登記義務を承継した控訴人に対し、その抹消手続を求める被控訴人の請求は理由があるから、これを認容すべきものとする。
(角村 菊池 土肥原)